Dashavatara Ganjifa

インドの伝統的なプレイングカードである「Ganjifa(ガンジファ)」には様々な種類がありますが、今回紹介する「Dashavatara Ganjifa」は、以前に紹介した「Mughal Ganjifa」に次いでポピュラーな存在だと言えるでしょう。

「Dashavatara(ダシャーヴァターラ)」は、ヒンドゥー教の主神の一であるヴィシュヌの10の主要アバターを指します。
「Dashavatara Ganjifa」は、10のスートで構成され、それぞれ1~10の数札と2枚のコートカードが揃っているのですが、このコートカードに「Dashavatara」が描かれているのです。


Dashavatara


Dashavatara


Dashavatara


Dashavatara


Dashavatara

ヴィシュヌの10の主要アバターは、通常以下のとおりです。

名称
1 マツシャ(魚)
2 クールマ(亀)
3 ヴァラーハ(猪)
4 ナラシンハ(人獅子)
5 ヴァーマナ(矮人)
6 パラシュラーマ(賢者)
7 ラーマ(王子)
8 クリシュナ
9 ブッダ(覚者)
10 カルキ(カリ・ユガの最後に出現するとされる)

ただし、地域によって一部が別のアバターに入れ替わっていたり、追加されていたりすることもあります。
今回紹介するデッキはオリッサ州で作成されたものであるらしく、「クリシュナ」と「ブッダ」が、「バララーマ」と「ジャガンナート」に入れ替わっています。

上記の画像では、1段目左から「マツシャ/魚」、「クールマ/亀」、「ヴァラーハ/貝殻」、2段目左から「ナラシンハ/チャクラ(装飾されたディスク)」、「ヴァーマナ/瓶」、3段目左から「パラシュラーマ/斧」、「ラーマ/弓と矢」、「バララーマ/棍棒」、4段目左から「ジャガンナート/ハスの花」、「カルキ/剣」の順に並べています。

1段目と2番目のスートは「Kambar suits」(数札は数字が大きいほど強い)、3段目と4番目のスートは「Bishbar suits」(数札は数字が小さいほど強い)となります。

Ganjapa

「Ganjapa」と呼ばれるインドのオリッサ州(英語: Odisha、旧名称の英語: Orissa)の伝統的なプレイングカードです。
前回紹介した「Mughal Ganjifa」の一種ではあるのですが、オリッサ州ではインドの他の地域とはかなり異なる発展を遂げました。

基本的にはスートの種類やカードの枚数は変わりませんが、コートカードの大臣は叙事詩『マハーバーラタ』(Mahābhārata)の英雄アルジュナ(Arjuna)、王はクリシュナ(Krishna)の化身で9種の動物からなる生き物 Navagunjara に置き換えられています。


Ganjapa


Ganjapa


Ganjapa


Ganjapa

上記の画像では上段左から「金貨」、「手形」、「布」、「ハープ」、下段左から「銀貨」、「クラウン」、「奴隷」、「剣」の順に並べています。

追記:
「Ganjapa」だけでなく、他の地域の「Mughal Ganjifa」についても言えることですが、スートの数が8ではなく、10や12などのデッキも存在するようです。その場合も、各スートが1~10の数札と2枚のコートカードで成り立っている点は変わりません。

Mughal Ganjifa

「Ganjifa」と呼ばれるインドの伝統的なプレイングカードの一種です。

起源は不明ですが、今日知られている「Ganjifa」はペルシャで始まったと考えられ、16世紀のムガル皇帝の下でインドで人気を博しました。宮廷では宝石や象牙などの貴重な材料を用いた贅沢なカードデッキが作られたようです。
ゲームは後に一般の人々にも広まり、木材やヤシの葉、硬い布などの材料を用いてカードデッキが作られました。

「Ganjifa」には地域などによって様々なバリエーションがありますが、「Mughal Ganjifa」はペルシャで使用された元のパターンに最も近いタイプであると考えられています。ただし、カードを円形としたのはインドのオリジナルです。
「金貨」、「手形」、「商品(布)」、「ハープ」、「銀貨」、「クラウン」、「奴隷」、「剣」をシンボルとする8つのスートで構成され、それぞれ1~10の数札と2枚のコートカード(大臣、王)が揃っています。


Mughal Ganjifa


Mughal Ganjifa


Mughal Ganjifa


Mughal Ganjifa


Mughal Ganjifa

上記の画像では上段左から「金貨」、「手形」、「商品(布)」、「ハープ」、下段左から「銀貨」、「クラウン」、「奴隷」、「剣」の順に並べています。
上段の4スートは「Kambar suits」と呼ばれ、数札は数字が大きいほど強く、下段の4スートは「Bishbar suits」と呼ばれ、数札は数字が小さいほど強いというルールとなっています。

追記:
ペルシャから伝わったプレイングカードを円形にしたのはインドのオリジナルですが、円形のプレイングカードを世界で最初に作成したのがインドだという意味ではありません。
円形の Ganjifa が普及したのは19世紀以降のようですが、以前に紹介した「Karten Spiel des Meisters PW」のように、ヨーロッパにもそれより前から円形のプレイングカードは存在します。

追記2:
インドのガンジファ(Ganjifa)もヨーロッパのプレイングカードも共に、トルコのマムルークカード(Mamluk cards)を祖先とするのではないかと考えられているようです。
ムガル帝国の “Mughal” はモンゴル(Mongol)を意味しますが、彼らは11世紀にペルシャに侵入したトルコ人の子孫であり、およそ200年後にモンゴルによって同じ土地から追い出されました。